「事業開発(BizDev)は、顧客探索・課題発見・必要なソリューションの定義・デリバリー・サクセスまでを一気通貫で担う (担えるようにあるべき)」
これは、自分が「理想」として位置づけてきたBizDevの姿です。
BizDevとは読んで字の如く、「事業を創造する仕事」なので、長らく、このスタイルこそがBizDevのあり方だと信じてきましたし、実際にその在り方を推奨してきました。
しかし、事業のフェーズが進み、顧客が広がり、課題がより深く、複雑になるにつれ、最近ではこの考え方を改めています。というか、一人で担ってもらうのは難しいのではないか、と考えています。
現在では、事業開発を「前衛」と「後衛」という二つの概念に分離して捉えています。
この2つを統合的に担うケースもあれば、意識的に分離することもあります。重要なのは、2つが別物だと認識することです。
この整理に至った背景と、「前衛」「後衛」のそれぞれが対峙する「異なる不確実性」について書いてみます。
「前衛」の役割 ── 白地図に道を描く
「前衛」が対峙するのは、「解くべき問を設定する」という不確実性です。

多くのビジネスオペレーションの多くは、現状(As-Is)とあるべき姿(To-Be)のギャップを埋める「Gap fill」のアプローチで進められます。
しかし、前衛の立ち位置はそこではありません。そもそも「求めるべき姿はなにか」を定めること、あるいは顧客自身もそれに気づいていない場所からスタートします。
潜在顧客を探し、問いを立てる
ここで前衛に最も求められるのは、「将来の顧客のが、解決すべき問題を定義し、合意すること」です。
時には、まだ顕在化していない潜在顧客そのものを探し出すことから始まります。
そこには地図もなければ、標識もありません。何もない真っ白な原野に立ち、最初のチョークで一本の線を引く。
混沌とした顧客の声の中から (時には何を言っているのかわからないところから)、事業として取り組むべき「問い」を立てる。これが前衛の本質的な仕事です。
ここでの成果は、契約金額の多寡やリード数だけではありません。「我々が解くべき問題はこれだったのか」という発見そのもの、事業の種を見つけることが、最大の成果となることもあります。
「後衛」の役割 ── 無限の分岐路を選択する
「後衛」は前衛が「問い」を立て、顧客との関係性や契約を構築した後、バトンを受け取ります。
彼らが対峙するのは、「問を満たす実現手段」における不確実性です。

「契約が決まったのだから、あとはやるだけでは?」と思われるかもしれません。
しかし、新規性の高い事業におけるデリバリーは、定型化された業務フローに乗せるだけの業務とは対極にあります。
現実に合わせて鋭く尖らせる
前衛が描いた「道」に乗った後、そこには無数の「分岐(Howの選択肢)」が待ち受けています。
- 顧客の声を追求しすぎれば、技術的負債が巨大化する
- 品質をを取りすぎれば、納期は遅れ、事業としての革新性が失われる
後衛は、顧客の要求とこうした複雑な変数との間で、「どの道を選び、プロジェクトを最大のインパクトで着地させられるか」を判断し続けなければいけません。時には内外とのハードな交渉も必要になります。
常にバランスよく進めればいいというわけではなく、時には顧客の状態に合わせて、時には自社の状況に合わせて、「思い切りバランスを崩したアプローチ」を選択するような大胆さが求められることもあります。
なにより、そうした意思決定の責任を、運用フェーズにおいては全て引き受けていく必要もあるのです。
前衛が「道を拓く」役割だとするなら、後衛は「道を進む中で現れる無限の分岐から、最適なルートを選択し続ける」役割。
そのようなイメージです。
なぜ「分離」が必要か
「前衛」と「後衛」。
もちろん、一人の人間がこの両方を高いレベルでこなせれば、それに越したことはありません。そして実際、求められるスキルには重複する部分も多くあります。顧客理解、論理的思考、コミュニケーション能力──こうした基礎スキルは両者に共通して必要です。
では、なぜ2つは分離が必要なのか。
それはスキルではなく、精神性の違いだと考えています。もっと平たく言えば「好き嫌い」の問題です。
- 前衛: 誰もいない荒野に飛び込み、ゼロからイチを生み出すことに快感を覚える。不確定な状況そのものを楽しめるタイプ
- 後衛: 複雑に絡み合った条件を解きほぐし、現実的な解に着地させることに喜びを感じる。制約の中で最適解を見つけることに燃えるタイプ

どちらが優れているという話ではありません。「白地図に道を描く」ことと「分岐を適切に選択する」ことは、能力としても異なりますが、何よりもどちらに心が躍るかが違うのです。
スーパーマンを求めて疲弊させるより、それぞれが「好きな戦い方」でフルスイングできる環境を作る。その方が、結果として事業のスピードも質も上がると判断しました。
分離はするが、分断はしない
このように役割を分けましたが、これは決して組織をサイロ化(分断)することを意味しません。むしろ、私の理想は逆です。

- 前衛は、後衛がデリバリーで直面する難所を知っているからこそ、実現可能性を踏まえた「挑戦的な提案」ができる
- 後衛は、前衛が掴んできた「顧客の真の課題」を深く理解しているからこそ、迷った時の判断軸をブラさずにプロジェクトを完遂できる
「連続的な役割を、非連続な個々で分担する」
基本的には役割を分離していますが、どちらの経験も事業家としてのキャリアには大きなプラスの効用があります。重要なのは、自分が今「どちらのモード」で、「どの種類の不確実性」と戦っているのかを自覚することではないか、と考えています。
とはいえ、スーパーマンもいる
私が「すごい」と思う事業家はこうした求められる役割の違い、精神性の違いを軽々と飛び越え、一人でどちらの概念も捌いてしまいます。
私の会社にも、これまでに数名だけ、どちらの顔も完全に使いこなすことのできるスーパープレイヤーがいます&いました。
非常に貴重で、当たり前の存在ではありません。彼らを基準にチームアップはできないでしょう。
多くの場合で大事なのは背伸びではなく、無理なものは無理、という割り切りです。
ですが、事業家が目指すべき姿として、こうしたスーパーマンも存在する、ということは心に留めておいても良いかもしれません。
